2026-03

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春になれば、また会おう

第五章 春になれば、また会おう 秋が来て、冬が来た。 相川町の冬は、東京より寒かった。山に囲まれた盆地は朝晩の冷え込みが厳しく、十一月の終わりには初霜が降り、十二月には時折雪がちらついた。島田は子どもの頃に慣れ親しんだはずのその寒さを、五十...
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夏の終わりに

第四章 夏の終わりに 七月の終わり、相川町に夏祭りがあった。 神社の境内に屋台が並び、夜に盆踊りが行われる、小さな祭りだ。子どもたちが浴衣を着て走り回り、老人が縁台に腰かけ、若い男女が人混みの中で肩を寄せ合う。島田が子どもの頃から変わってい...
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田植えの頃

第三章 田植えの頃 五月になると、相川町の田んぼに水が入り始めた。 朝日に照らされた水田が鏡のように光る様子は、島田が子どもの頃から好きだった光景だった。帰ってきて最初の五月に、それをまた目にすることができた。島田は朝の散歩の途中でしばらく...
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花の名前

第二章 花の名前 四月になると、相川町の桜が一斉に咲いた。 島田工務店の裏手にある川沿いの並木道は、この季節に町でいちばん美しい場所になる。島田が子どもの頃から変わっていない。春休みには子どもたちが走り回り、地元の人間が散歩に来て、週末には...
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春になれば、また会おう

春になれば、また会おう第一章 帰る場所 長崎行きの特急列車が、山あいの小さな駅に滑り込んできたのは、三月の終わりの夕方だった。 ホームに降り立った乗客は、島田一郎ただ一人だった。 五十一歳。黒いスーツケースを一つ引いて、グレーのコートを着て...